講義リポート

群馬大学

大事なのは経歴ではなく経験
@茨城・江戸川学園取手中学・高校

田中 和美

大学院医学系研究科医療の質・安全学講座 助教 京都府出身/京都府立西舞鶴高等学校

 群馬大学大学院医学系研究科の田中和美助教は、茨城県取手市の江戸川学園取手中学・高校を訪れた。「ヒューマンファクターとノンテクニカルスキル」と題し、医療の質や安全について、医学部進学をめざす医科ジュニアコースなどの中学生約270人に講義した。


  「ヒューマンファクター」とは錯覚や不注意など、誰にでも起こりうる人間の行動特性のことで、時には重大事故の要因になることもある。「医療現場でも、このヒューマンファクターに着目した事故防止策やルール作りが行われています」と田中助教。人間工学に基づいたデザインや設計で、操作ミスを防ぐ工夫を施した医療機器があることなどを紹介した。


 また、コミュニケーション力や思考力、対人関係能力に代表される「ノンテクニカルスキル」も医療の場では重要になる。田中助教は、「棒の上に丸をかいてみて」と生徒たちに促すと、棒の位置や丸の大きさなど、人によって異なる図が出来上がることを解説した。「大勢のスタッフが関わる医療の場で、このような認識の違いが生じたら大変。物事のとらえ方や解釈の仕方など、人によってメンタルモデルが異なるという前提で行動する力が必要です」と田中助教。質の高いチーム医療のためには、リーダーシップや、リーダーをサポートするフォロワーシップを学ぶことも大切だと述べた。


 田中助教は東京大学薬学部の修士課程修了後に群馬大医学部に編入。外科医となった後も、臨床、研究、教育と様々な分野に携わってきた。2019年秋から昨年5月までスイス・ジュネーブの世界保健機関(WHO)本部に派遣され、そのときの研修の様子や、コロナ禍でロックダウンされた街の写真なども紹介した。


 講義の最後に田中助教は「大事なのは経歴ではなく経験」と語り、「全ての経験がいまの自分につながっている。みんなも自信をもって色々な経験をして欲しい」とエールを送った。


 講義後は、生徒たちから「人の異なるメンタルモデルをどう合わせるのか」「薬学部ではどんな研究をしていたか」など、熱心な質問が相次いだ。中には「コロナ禍で、あったらいいなと思うものは」という質問もあり、田中助教は「医療の指導では道具を使うことが多い。ドラえもんの道具のようで非現実的だけれど、オンライン通話の相手に、自分が手元で触れているものをポンと出せる道具があれば」と答えていた。


 講義を受けた下川健太さん(3年)は、「棒の上に丸をかいて周囲と比べたら本当にみんな違っていて驚いた。人によって価値観が異なることを実感した」。山岸広輝さん(同)は、人間工学的な視点やノンテクニカルスキルも利用してチーム力を上げたラグビー日本代表の例を聞き、「所属するハンドボール部でも生かせるかもしれない。大学の授業のイメージもわきました」と感想を話していた。

群馬大学

群馬師範学校、前橋医科大学などを包括し、1949年開学。共同教育、社会情報、医、理工の4学部。2021年4月に新設される情報学部では、人文情報、データサイエンスなど文理融合の教育を展開する。

群馬大学

大事なのは経歴ではなく経験
@茨城・江戸川学園取手中学・高校

田中 和美

大学院医学系研究科医療の質・安全学講座 助教
京都府出身/京都府立西舞鶴高等学校

 群馬大学大学院医学系研究科の田中和美助教は、茨城県取手市の江戸川学園取手中学・高校を訪れた。「ヒューマンファクターとノンテクニカルスキル」と題し、医療の質や安全について、医学部進学をめざす医科ジュニアコースなどの中学生約270人に講義した。


  「ヒューマンファクター」とは錯覚や不注意など、誰にでも起こりうる人間の行動特性のことで、時には重大事故の要因になることもある。「医療現場でも、このヒューマンファクターに着目した事故防止策やルール作りが行われています」と田中助教。人間工学に基づいたデザインや設計で、操作ミスを防ぐ工夫を施した医療機器があることなどを紹介した。


 また、コミュニケーション力や思考力、対人関係能力に代表される「ノンテクニカルスキル」も医療の場では重要になる。田中助教は、「棒の上に丸をかいてみて」と生徒たちに促すと、棒の位置や丸の大きさなど、人によって異なる図が出来上がることを解説した。「大勢のスタッフが関わる医療の場で、このような認識の違いが生じたら大変。物事のとらえ方や解釈の仕方など、人によってメンタルモデルが異なるという前提で行動する力が必要です」と田中助教。質の高いチーム医療のためには、リーダーシップや、リーダーをサポートするフォロワーシップを学ぶことも大切だと述べた。


 田中助教は東京大学薬学部の修士課程修了後に群馬大医学部に編入。外科医となった後も、臨床、研究、教育と様々な分野に携わってきた。2019年秋から昨年5月までスイス・ジュネーブの世界保健機関(WHO)本部に派遣され、そのときの研修の様子や、コロナ禍でロックダウンされた街の写真なども紹介した。


 講義の最後に田中助教は「大事なのは経歴ではなく経験」と語り、「全ての経験がいまの自分につながっている。みんなも自信をもって色々な経験をして欲しい」とエールを送った。


 講義後は、生徒たちから「人の異なるメンタルモデルをどう合わせるのか」「薬学部ではどんな研究をしていたか」など、熱心な質問が相次いだ。中には「コロナ禍で、あったらいいなと思うものは」という質問もあり、田中助教は「医療の指導では道具を使うことが多い。ドラえもんの道具のようで非現実的だけれど、オンライン通話の相手に、自分が手元で触れているものをポンと出せる道具があれば」と答えていた。


 講義を受けた下川健太さん(3年)は、「棒の上に丸をかいて周囲と比べたら本当にみんな違っていて驚いた。人によって価値観が異なることを実感した」。山岸広輝さん(同)は、人間工学的な視点やノンテクニカルスキルも利用してチーム力を上げたラグビー日本代表の例を聞き、「所属するハンドボール部でも生かせるかもしれない。大学の授業のイメージもわきました」と感想を話していた。

群馬大学

群馬師範学校、前橋医科大学などを包括し、1949年開学。共同教育、社会情報、医、理工の4学部。2021年4月に新設される情報学部では、人文情報、データサイエンスなど文理融合の教育を展開する。