講義リポート

神戸市外国語大学

言葉は人間を映す鏡
@広島・舟入高校

山口 治彦

外国学部英米学科 教授 大阪府出身/大阪府立 生野高等学校

 神戸市外国語大学副学長の山口治彦教授は、広島市中区の市立舟入高校を訪れた。1、2年生の63人を前に、「似ているのに異なるのはなぜ?-辞書には載っていない意味の違いの話-」と題して講義した。


 山口教授の専門は言語学。日常会話における英語や日本語の意味、用法と、人間の考え方や行動様式の関係を研究している。「言葉は単なるコミュニケーションのツールではありません。人と人を言葉がどう結びつけているのかを探りましょう」と話し、講義では、似た意味を持つ類義語に焦点を当てた。辞書では必ずしも違いがはっきり書かれていない二つの言葉が、実際は場面や心理によって巧みに使い分けられ、時代とともに使われ方も変化していることを解き明かした。


 最初は、「話す」を意味する英語の「say」と「tell」の違いを例にあげた。「リンダはおはようと言う」など相手の発言そのものを表す時は「say」を使うが、「リンダはジョークを言う」など、相手が発した内容や情報を重視する時は「tell」がしっくり来る。両者は意味と用法の違いが明確で、役割分担しながら使い続けられていると定義した。


 一方、変遷した言葉として、日本語の「ワイン」と「ぶどう酒」を紹介した。戦前は多く使われた「ぶどう酒」が、生活の変化などに伴って「ワイン」に主役を取って代わられた様子を振り返った。山口教授は「人間は合理的精神から最も労力の少ない方を選ぶとされます。言葉も同じものは二つはいらない。生き残る強い類義語には必ず個性に似た違いがあり、弱い言葉は出場機会が減っていく。サッカー部のレギュラー争いみたいなものですね」と語りかけた。


 後半は、神戸市外国語大学の2020年度のAO入試で出題したテーマを取り上げた。「『怖い』と『恐ろしい』はどこが異なるでしょうか」と山口教授。どちらも恐怖を表す形容詞だが、「怖い物見たさ」「末恐ろしい」とは言うものの、「恐ろしい物見たさ」「末怖い」と発言することはあまりない。山口教授は、目の前の現実に対して恐怖を感じる時は「怖い」を、将来の顚末てんまつを想像して恐怖を感じる時は「恐ろしい」を無意識に使い分けていると指摘。言葉の違いで表情や動作まで変わる点を、身振り手ぶりを交えて解説した。


 山口教授は「言葉の成り立ちや振る舞いをじっくり観察すると、人間の思考や知識の構造が見えてきます。言葉は人間を映す鏡。一つひとつに意味があり、なぜこうなっているのだろうと考えると結構楽しいですよ」と結んだ。


 講義後、2年生の石野悠さんは「すでに知っていると思うことでも、掘り下げて考えると新しい発見があることがわかった。将来は英語をたくさん使って、多くの経験を積んでいきたい」と感想を話した。

神戸市外国語大学

1946年創立の神戸市立外事専門学校が前身。49年に現大学に。英米、ロシア、中国、イスパニア、国際関係、第2部英米の6学科。2021年度から専門教育のコース制を再編し、より高度な人材育成をめざす。

神戸市外国語大学

言葉は人間を映す鏡
@広島・舟入高校

山口 治彦

外国学部英米学科 教授
大阪府出身/大阪府立 生野高等学校

 神戸市外国語大学副学長の山口治彦教授は、広島市中区の市立舟入高校を訪れた。1、2年生の63人を前に、「似ているのに異なるのはなぜ?-辞書には載っていない意味の違いの話-」と題して講義した。


 山口教授の専門は言語学。日常会話における英語や日本語の意味、用法と、人間の考え方や行動様式の関係を研究している。「言葉は単なるコミュニケーションのツールではありません。人と人を言葉がどう結びつけているのかを探りましょう」と話し、講義では、似た意味を持つ類義語に焦点を当てた。辞書では必ずしも違いがはっきり書かれていない二つの言葉が、実際は場面や心理によって巧みに使い分けられ、時代とともに使われ方も変化していることを解き明かした。


 最初は、「話す」を意味する英語の「say」と「tell」の違いを例にあげた。「リンダはおはようと言う」など相手の発言そのものを表す時は「say」を使うが、「リンダはジョークを言う」など、相手が発した内容や情報を重視する時は「tell」がしっくり来る。両者は意味と用法の違いが明確で、役割分担しながら使い続けられていると定義した。


 一方、変遷した言葉として、日本語の「ワイン」と「ぶどう酒」を紹介した。戦前は多く使われた「ぶどう酒」が、生活の変化などに伴って「ワイン」に主役を取って代わられた様子を振り返った。山口教授は「人間は合理的精神から最も労力の少ない方を選ぶとされます。言葉も同じものは二つはいらない。生き残る強い類義語には必ず個性に似た違いがあり、弱い言葉は出場機会が減っていく。サッカー部のレギュラー争いみたいなものですね」と語りかけた。


 後半は、神戸市外国語大学の2020年度のAO入試で出題したテーマを取り上げた。「『怖い』と『恐ろしい』はどこが異なるでしょうか」と山口教授。どちらも恐怖を表す形容詞だが、「怖い物見たさ」「末恐ろしい」とは言うものの、「恐ろしい物見たさ」「末怖い」と発言することはあまりない。山口教授は、目の前の現実に対して恐怖を感じる時は「怖い」を、将来の顚末てんまつを想像して恐怖を感じる時は「恐ろしい」を無意識に使い分けていると指摘。言葉の違いで表情や動作まで変わる点を、身振り手ぶりを交えて解説した。


 山口教授は「言葉の成り立ちや振る舞いをじっくり観察すると、人間の思考や知識の構造が見えてきます。言葉は人間を映す鏡。一つひとつに意味があり、なぜこうなっているのだろうと考えると結構楽しいですよ」と結んだ。


 講義後、2年生の石野悠さんは「すでに知っていると思うことでも、掘り下げて考えると新しい発見があることがわかった。将来は英語をたくさん使って、多くの経験を積んでいきたい」と感想を話した。

神戸市外国語大学

1946年創立の神戸市立外事専門学校が前身。49年に現大学に。英米、ロシア、中国、イスパニア、国際関係、第2部英米の6学科。2021年度から専門教育のコース制を再編し、より高度な人材育成をめざす。