講義リポート

京都大学

ゲノム解析で生物多様性を守る
@広島・基町高校

井鷺 裕司

大学院農学研究科 森林生物学研究室 教授 広島県出身/広島県立 広島皆実高校

 京都大学大学院農学研究科の井鷺裕司教授は、広島市中区の市立基町高校を訪問。1~3年生66人に向けて、「ゲノム情報で生物多様性を理解し保全する」をテーマに講義した。


 冒頭で画面に出したのは、希少植物18種の花の写真。「どれも魅力的ですばらしい。すべては進化の結果。文化財は博物館で守れるが、生物は世代交代できなければ目の前から失われてしまう」と語り始めた。人間にも多くの恩恵を与えてくれている生物多様性。世界各地で危機に直面し、日本国内でもシダ植物と種子植物の合計約7千種のうち、約3分の1に絶滅の恐れがあると指摘した。


 井鷺教授は、生物の細胞の核の中にあるゲノム(全遺伝情報)を解析して得られる遺伝情報を、絶滅危惧種の保全に役立てる研究に約30年取り組んでいる。遺伝情報の解読技術はこの間、1千万倍以上のスピードに進歩。DNAの塩基配列を調べることで、個体間の関係や植物の摂取状況など、希少種を取り巻く環境が詳細に把握できるようになった。


 栃木県やハワイなど各地の事例が広く紹介されたが、「生物相が世界的にとても興味深い」とする小笠原諸島での研究に多くの時間が割かれた。


 鳥類では絶滅危惧種のアカガシラカラスバトの事例を挙げた。個体数が減少する中、フンに含まれる遺伝情報を解読。植物の遺伝情報データベースと照合し、人間が持ち込んだランタナやガジュマルなどの外来植物を多く食べていることがわかった。外来植物を一方的に駆除した場合、依存関係にある希少種の食料資源を減らすことにつながる。生態系の管理の難しさが浮き彫りになった。


 ゲノム解析から生物の環境変化への適応力を探る事例も示した。小笠原に数本しかないホシツルランは環境省が厳重に保護していながら、芽生えても枯れてしまい、課題となっていた。ゲノム解析により、遺伝子に有害な突然変異が多く蓄積していることが判明。沖縄で元気に自生する近縁種のツルランと有害遺伝子量の差は大きく、「個体数が少ないと近親交配などによって遺伝的な多様性が失われ、保全がさらに厳しくなることがわかった。希少種の保全には個体数だけでなく、遺伝情報の中身もきちんと見ていく必要がある」と強調した。


 井鷺教授はニュートンの「巨人の肩に乗る」の言葉を最後に引用。「ゲノム解析で新しい知見が次々に生まれている。とても面白い分野なので、皆さんもぜひチャレンジしてほしい」と結んだ。


 3年生の松田愛弓さんは、幼いころから色や形が多様な貝類に興味を持ち続けてきた。「最先端の研究が聞けて、生物がもっと好きになった。将来は保全に関わる仕事に就けるように努力したい」と感想を話していた。

京都大学

1897年、京都帝国大学として創立。総合人間、文、教育、法、経済、理、医、薬、工、農の10学部がある。農学部は森林科学、資源生物科学、応用生命科学など6学科からなる。

京都大学

ゲノム解析で生物多様性を守る
@広島・基町高校

井鷺 裕司

大学院農学研究科 森林生物学研究室 教授
広島県出身/広島県立 広島皆実高校

 京都大学大学院農学研究科の井鷺裕司教授は、広島市中区の市立基町高校を訪問。1~3年生66人に向けて、「ゲノム情報で生物多様性を理解し保全する」をテーマに講義した。


 冒頭で画面に出したのは、希少植物18種の花の写真。「どれも魅力的ですばらしい。すべては進化の結果。文化財は博物館で守れるが、生物は世代交代できなければ目の前から失われてしまう」と語り始めた。人間にも多くの恩恵を与えてくれている生物多様性。世界各地で危機に直面し、日本国内でもシダ植物と種子植物の合計約7千種のうち、約3分の1に絶滅の恐れがあると指摘した。


 井鷺教授は、生物の細胞の核の中にあるゲノム(全遺伝情報)を解析して得られる遺伝情報を、絶滅危惧種の保全に役立てる研究に約30年取り組んでいる。遺伝情報の解読技術はこの間、1千万倍以上のスピードに進歩。DNAの塩基配列を調べることで、個体間の関係や植物の摂取状況など、希少種を取り巻く環境が詳細に把握できるようになった。


 栃木県やハワイなど各地の事例が広く紹介されたが、「生物相が世界的にとても興味深い」とする小笠原諸島での研究に多くの時間が割かれた。


 鳥類では絶滅危惧種のアカガシラカラスバトの事例を挙げた。個体数が減少する中、フンに含まれる遺伝情報を解読。植物の遺伝情報データベースと照合し、人間が持ち込んだランタナやガジュマルなどの外来植物を多く食べていることがわかった。外来植物を一方的に駆除した場合、依存関係にある希少種の食料資源を減らすことにつながる。生態系の管理の難しさが浮き彫りになった。


 ゲノム解析から生物の環境変化への適応力を探る事例も示した。小笠原に数本しかないホシツルランは環境省が厳重に保護していながら、芽生えても枯れてしまい、課題となっていた。ゲノム解析により、遺伝子に有害な突然変異が多く蓄積していることが判明。沖縄で元気に自生する近縁種のツルランと有害遺伝子量の差は大きく、「個体数が少ないと近親交配などによって遺伝的な多様性が失われ、保全がさらに厳しくなることがわかった。希少種の保全には個体数だけでなく、遺伝情報の中身もきちんと見ていく必要がある」と強調した。


 井鷺教授はニュートンの「巨人の肩に乗る」の言葉を最後に引用。「ゲノム解析で新しい知見が次々に生まれている。とても面白い分野なので、皆さんもぜひチャレンジしてほしい」と結んだ。


 3年生の松田愛弓さんは、幼いころから色や形が多様な貝類に興味を持ち続けてきた。「最先端の研究が聞けて、生物がもっと好きになった。将来は保全に関わる仕事に就けるように努力したい」と感想を話していた。

京都大学

1897年、京都帝国大学として創立。総合人間、文、教育、法、経済、理、医、薬、工、農の10学部がある。農学部は森林科学、資源生物科学、応用生命科学など6学科からなる。