講義リポート

中央大学

自分の頭で批判的に考える力を
@鵬翔高校(宮崎県)

猪股 孝史

法学部教授 青森県出身/青森県立青森高等学校

 猪股孝史教授は2023年11月1日、宮崎市の鵬翔高校で「訴訟で解決することの意味はどこにあるのか」と題して2、3年生計108人に講義し、「法学」のあり方を説いた。


 教授の専門は民事手続法。大学では大人数の講義と少人数の演習があると仕組みを説明した後、大学1年生の演習で取り上げるという「津隣人訴訟」をテーマに話した。


 この訴訟は1977年、三重県津市で、隣人に預けた男児が近くのため池に入って亡くなったことから、男児の両親が、隣人らに損害賠償を求めたものだ。近所づきあいのやりとりで法的責任が問われるかどうか、大きな関心を集めた。津地方裁判所は提訴から6年後、隣人に約500万円の支払いを命じた。


 教授は、事故の概要や訴えまでの経緯などをていねいに説明。「判決にかかった時間や、賠償額をどう思いますか」と問いかけ、「『遅れた裁判は正義の否定』という言葉があります」「裁判が正しいとは限らない。この結論でいいのか常に自分の頭で批判的に考えてほしい」と語りかけた。


 この判決の後、「隣人の好意につらい裁き」などと報道され、男児の両親への非難が相次ぎ、隣人にも嫌がらせが続いたことで裁判は取り下げられた。法務省が当時、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」と定める日本国憲法第32条をもとに、権利の重要性を訴える事態になった。猪股教授は、この法務省の異例の見解を紹介しながら、「法律上は何の解決にもならなかった」と、日本社会の法意識について説明した。


 また、裁判によらない合意や和解などの紛争解決の手続き(ADR:Alternative Dispute Resolutionの略)があるとも紹介。「世界に目を向ければ、ロシアによるウクライナ侵攻や、イスラエルとパレスチナの問題もある。平和で、安心・安全に暮らしていけるルールはどうあるべきか。限界があるならそれを越えるためにどうすればいいか。それを考えていくのが法学です」と訴えた。


 講義には、法学部への進学を希望している3年生も参加。将来、司法試験を目指したいという3年の山崎多喜子さん(18)は「法学は生活にいかせる学問だと思いました。批判的に自分で考えるという言葉が印象に残りました」と感想を語った。2年生の小玉瑞季さん(17)は「社会学部を考えているが、ウクライナとかの話を聞いて、法学部と社会学部が重なる部分があるんだなと興味がわきました」と話していた。

中央大学

1885年7月、法律家たちが東京・神田に開いた英吉利法律学校が始まり。1905年に中央大学と改称、多くの学部を持つ総合大学として発展を続ける。1978年、文系学部は広大な多摩キャンパスに移転。長年、法曹界に多くの人材を輩出してきた法学部は2023年、都心の茗荷谷キャンパスに移った。

●公式ウェブサイト https://www.chuo-u.ac.jp/

中央大学

自分の頭で批判的に考える力を
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猪股 孝史

法学部教授 青森県出身/青森県立青森高等学校

 猪股孝史教授は2023年11月1日、宮崎市の鵬翔高校で「訴訟で解決することの意味はどこにあるのか」と題して2、3年生計108人に講義し、「法学」のあり方を説いた。


 教授の専門は民事手続法。大学では大人数の講義と少人数の演習があると仕組みを説明した後、大学1年生の演習で取り上げるという「津隣人訴訟」をテーマに話した。


 この訴訟は1977年、三重県津市で、隣人に預けた男児が近くのため池に入って亡くなったことから、男児の両親が、隣人らに損害賠償を求めたものだ。近所づきあいのやりとりで法的責任が問われるかどうか、大きな関心を集めた。津地方裁判所は提訴から6年後、隣人に約500万円の支払いを命じた。


 教授は、事故の概要や訴えまでの経緯などをていねいに説明。「判決にかかった時間や、賠償額をどう思いますか」と問いかけ、「『遅れた裁判は正義の否定』という言葉があります」「裁判が正しいとは限らない。この結論でいいのか常に自分の頭で批判的に考えてほしい」と語りかけた。


 この判決の後、「隣人の好意につらい裁き」などと報道され、男児の両親への非難が相次ぎ、隣人にも嫌がらせが続いたことで裁判は取り下げられた。法務省が当時、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」と定める日本国憲法第32条をもとに、権利の重要性を訴える事態になった。猪股教授は、この法務省の異例の見解を紹介しながら、「法律上は何の解決にもならなかった」と、日本社会の法意識について説明した。


 また、裁判によらない合意や和解などの紛争解決の手続き(ADR:Alternative Dispute Resolutionの略)があるとも紹介。「世界に目を向ければ、ロシアによるウクライナ侵攻や、イスラエルとパレスチナの問題もある。平和で、安心・安全に暮らしていけるルールはどうあるべきか。限界があるならそれを越えるためにどうすればいいか。それを考えていくのが法学です」と訴えた。


 講義には、法学部への進学を希望している3年生も参加。将来、司法試験を目指したいという3年の山崎多喜子さん(18)は「法学は生活にいかせる学問だと思いました。批判的に自分で考えるという言葉が印象に残りました」と感想を語った。2年生の小玉瑞季さん(17)は「社会学部を考えているが、ウクライナとかの話を聞いて、法学部と社会学部が重なる部分があるんだなと興味がわきました」と話していた。

中央大学

1885年7月、法律家たちが東京・神田に開いた英吉利法律学校が始まり。1905年に中央大学と改称、多くの学部を持つ総合大学として発展を続ける。1978年、文系学部は広大な多摩キャンパスに移転。長年、法曹界に多くの人材を輩出してきた法学部は2023年、都心の茗荷谷キャンパスに移った。

●公式ウェブサイト https://www.chuo-u.ac.jp/