JSEC2018 審査講評

総 評

 高校生科学技術チャレンジ(JSEC)は、高校生の自由な発想に基づく科学技術に関する自由研究のコンテストで、16回目となりました。最終審査で選ばれる研究課題は、国外でも十分に評価されるものであるとの評判もあり、高校生が世界を意識するコンテストとして定着してきた感があります。

 JSEC2018には、全国から247件の応募があり、昨年より大幅に増加しました。書類審査による予備審査と一次審査、ポスター発表による最終審査により、応募作品の一つ一つを厳正かつ慎重に評価しました。着眼点や独創性、研究への情熱や理解度、分析力や実証性、研究を展開する力など、昨年と同様に多面的に審査しました。

 与えられたテーマを無難にこなして予想される結果をきれいにまとめた研究作品よりも、高校生ならではの着眼点を見いだし、果敢に挑戦して内容を持続的に深めたものは、より好感が持たれました。こうした作品は、粗削りで出来栄えは不十分と感じる面も見えましたが、生き生きとしていて、今後の伸びが期待でき、審査員は高く評価しました。全応募作品の分野は昨年と同様に物理、化学、生物、数学、情報、工学・エンジニアリングと多岐にわたっていました。分野別でみると最終審査に進んだ30作品では、生物系と化学・材料系が若干多め、物理とエンジニアリング系が若干少なめな印象でした。ただし、内容をよく見ると、生物系であってもエンジニアリングの要素が重要な作品や、材料系であっても物理的要素が要となる作品も多く、分野横断的な研究作品も多いと感じました。

 応募作品の課題レポートやポスター発表のプレゼンテーションの審査を通じ、高校生は地域の特徴や身近な自然現象を対象としていること、環境やエネルギーなどの地球的な課題にも関心を寄せていることなどがよくわかりました。そして、最新の科学技術の情報を採り入れて、実験装置や研究方法を工夫して研究を進めている様子が伺えました。

 一年間の研究の達成度という点から見ると、作品の平均的レベルは上がっているという印象でした。その背景には、高校教員の指導、大学や研究機関の協力、そして国の理数科自由研究への支援などがあると感じられました。ただし、どのような興味や動機から研究をはじめ、どのように自発的に取り組み、その結果どこまで進めることができ、さらにその先にどんな夢があるかを一連のストーリーとして研究レポートのアブストラクトにわかりやすく記述し、アブストラクトに沿ってレポートをまとめていると、進めてきた研究のすばらしさが、書類審査や一次審査で審査員により一層的確に伝わると感じる作品も多くありました。

 このことは、最終審査でのポスター発表でも同様で、高校生は研究成果について非常に熱心に語っている点は好感が持たれるのですが、こうした工夫により、より一層十分な質疑ができたように思いました。なお、審査全般を通じて、科学コンテストのルールや研究倫理面への関心を持っていただきたいとも感じました。面白そうな研究成果が出ていても、ルールから外れていると、審査ではそれを見逃すことはできません。

 最後に、来年も多くの高校生が科学とエンジニアリングに関係する研究で、自らの着眼点を見出し、アイデアをもってチャレンジし、その成果をJSEC募集要項に従って充実したアブストラクトや研究レポートにまとめ、参加してくることを期待します。

分野別講評と受賞研究の評価ポイント

◇研究分野ごとに、専門の審査委員による総評を掲載します。
◇上位受賞作についてはその評価のポイントを専門の審査委員から示しています。
 特別協賛社賞、協賛社賞、主催者賞、特別奨励賞は各社の審査委員が講評しています。

生物系分野(植物科学・微生物学)

 植物科学分野には18作品が出展され、光合成の機能に関わる研究、植物ホルモンの作用に関する研究、生態での植物の挙動を調べた研究、植物の形態変化や開花に関する研究、果物のうま味を評価する研究まで、非常に幅広い領域にわたる高校生らしい着想のユニークな研究が提出されました。それぞれが個性的で独創的な視点に基づく研究であったと思います。植物分野の研究は、高校生にとっては扱いやすい研究材料であることから、今後も特徴的な研究が数多くなされ、その中から植物学、植物生理学の新しい主要な研究テーマとなる様な分野が生まれてくることを期待しております。

 最終審査には5件の作品が選ばれ、「四つ葉のクローバーを発生させる条件とは」が科学技術振興機構賞に、「フギレデンジソウの研究 ~小葉が“ふぎれる”しくみの解明~」が花王特別奨励賞に選出されました。優秀賞に選ばれたものでは、アサガオの開花の仕組みを昨年に引き続き解析した研究は、明暗の刺激と気孔の開閉、水の取り込みの関係をより詳細に明らかにしました。サボテンの一種、キンシャチの維管束の特殊な構造を解析し、棘の根元から水分を吸収する仕組みを明らかにした研究も、とてもユニークで示唆に富んだものでした。また、モデルコケ類でもあるゼニゴケという身近なコケの再生能力に着目し、葉状体の成長点と再生の仕組みについての研究は、膨大な研究量で丹念に現象を追求する姿勢はたいへんすばらしく、1人で取り組んだ研究として高校生の水準を遥かに超えていると思いました。来年も柔軟な発想で興味深い研究が多数出展されること願っております。

 微生物学分野では10作品が出展されました。植物や動物に付着するバクテリア、粘菌、ツボカビの研究から、藻類から単離した葉緑体の光合成や動物の呼吸の研究まで含まれ、微生物学を超えた対象もありました。スギの生長と樹皮に生育する粘菌の関係を調べた1件が最終審査会まで進み優秀賞に選出されました。樹皮に生育する粘菌が他の微生物のスギへの侵入を防いでいるという仮説はユニークで、生長に伴う粘菌叢の変化が実際に菌の侵入とどう関わるかが示されれば、非常に優れた研究に発展する期待が持たれました。

化学系分野

 前年から一転して、化学系分野への応募件数が倍以上に増え、優れた研究も多数ありました。化学分野は身近な材料を使って研究を組み立てやすい分野だと思いますが、アピールポイントに苦労するかもしれません。

 今回は環境と絡めた斬新なアイデアや、従来とは違った原理による振動反応などが目を引きました。なかでも当初の目論見とは違った結果が出てしまって、それを自分たちなりに解明して新しい発見に結びつけた研究が高い評価を受けました。

 よいアイデアで研究を計画することは大切なことですが、新しい発見こそ自然科学の原点です。先輩から受け継いだ研究手法の継続性は実際に研究を行う上では重要ですが、自分自身で何かを見つけたことには何よりも重みがあります。若いうちに自然と対話するとはどういうことかを経験することができれば、成果の大小や他人の評判いかんにかかわらず、自然と関わって豊かな人生を歩んでいける可能性がぐっと広がると思います。

物理関連分野

 今年は力学および流体に関する実験研究や天文観測データの解析から新しい知見を引き出そうとする作品が集まりました。力学や流体の研究が対象としている身近な現象は様々な条件に影響されるため、その解釈は簡単ではありませんが、なんとか解明したいという努力が感じられる優れた研究がありました。

 物理は様々な状況下で観測される現象から、それを支配する普遍的な法則を見つけようとする研究分野ですが、そのような方向性をもった作品があり、これからも伸びて行ってほしいと願っています。研究している当人が気づいていなくても、思いがけない応用研究に発展することもあります。また、継続研究においては、その過程でいったん研究の進みが足踏みすることがありますが、そこで諦めず、それを更に深く掘り下げることで次の段階に進む突破口を見つけて欲しいと思います。そのようなセレンディピティやブレークスルーに出会うことを待ち望んでいます。

地学関連分野

 この分野には例年、スプライト、ジェットと呼ばれる大気中の発光現象を調査する研究があり、多地点での共同観測の仕組みもできあがっています。三角測量により、発光現象の位置や高度も解き明かされるようになってきており、次の大きな発見に到達するには少し時間がかかるかもしれませんが、着実に進化しています。また、日出時や日没時の現象についての観測研究が、近年の撮像機器の発達により定量的な解析ができるようになってきて、新たな知見が得られています。新たな観測装置の提案が出てくることも期待したいと思います。

 一方、地質や環境調査による研究にも優れたものがありました。地質関連では、例えば千葉で発見された「チバニアン」のように、古い地球環境を考えることができるものがあるので、良い研究が期待できます。環境については世界的に関心が高まりつつあるので、是非、未来の地球環境をより良いものにしようとする研究が続々と出てきてほしいと願っています。

数学・コンピューター科学関連

 数学の応募作品で取り扱われる課題は年々高度になっており、昨年度は、米国数学会最優秀賞を獲得することができました。今年の応募作品の内容も高度であり、応募する生徒諸君の数学的能力と興味には驚くばかりです。

 数学の研究は、他の分野に比べて先人たちの成果の上に成り立っています。先人たちの成果の一般化、或いは逆に、特殊な場合を考えることによって新しい成果が生まれます。全く違う視点で眺めてみることも重要な研究姿勢です。数学の研究に使う道具は、ある分野を体系的にまとめた数学書を通して身に付けます。高校生諸君が最初に目にする数学書は教科書です。教科書の理解の助けになるのは参考書です。二種類の書籍を通して、数学的な考え方、理展開、数学的な物事の説明の仕方を学びます。教科書の例題の解き方は、高校生諸君にとって最も近いところにある数学的記述法の例です。教科書例題は、周りに数学的研究の成果を説明するとき重要な手本になります。

 応募作品の中に、数式処理システムの利用による計算結果を通して、課題の数学的構造の予想をしている課題がありました。「四色問題」の解決に始まり、整数論に関わる予想、特殊関数の整理、計算統計学、等々数、式処理システムの利用は、現在、数学研究でも利用します。しかし、計算機を使って予想した成果をそのまま示すのではなく、そこから法則性を読み取り、「予想問題」としてまとめることによって、研究は次の段階に進むことができます。歴史上、「予想問題」を解く努力によって、数学の世界が芳醇になったことは計り知れません。取り組んだ課題が、自分の思う最終結果に辿り着いていなくても、良質な「予想問題」として、研究成果の未完成部分をまとめ直すことも重要な研究姿勢です。

 この20年の間、世界的に、数学と実社会の問題との繋がりが考え直す機運が高まっています。「数学は科学の女王」と言われます。数学が諸科学に君臨するのでなく、自然科学から、人文科学や社会科学にいたる種々の分野の課題や問題を、数学的思考を使って解明し、理解し、説明できるからです。有名な資本論の基本的な命題を、大学で学ぶ線型代数によって記述できます。高校生諸君は今後も、身の回りに数学的な課題を発見し、数学の世界の豊潤さを楽しむと共に、自身も、その世界に足跡を残してください。その一歩として、数学に関する課題に今後も取り組み、2019年度のJSECへの応募を期待しています。

文部科学大臣賞

「空中環境DNAを使った鳥類調査法の確立をめざして」

 フクロウなどの夜行性の鳥などの生態行動や分布を調べることはとても難しいことです。

 生徒達はまず、フクロウの羽毛から飛散する空中の微粒子を採取し、それを条件に合わせてDNAが壊れないように液体に溶かして分析しました。その結果、採取したサンプルから4つのフクロウ特異的ミトコンドリアDNAの配列を見つけました。この液体にDNAを溶かし、そこからDNAを解析する方法は他にもなされていますが、今回は野外で空気中のDNAを直接、採取し分析することに成功しました。そのために新しく工夫・考案し作成したフィルター装置(箱)を用いて採取しています。6地点で空中から採取した試料のうち3地点で採取した試料から、フクロウのDNAが初めて検出されました。DNAの解析からは検出度や領域設定に今後、いくつか検討を残していますが、空気中から脊椎動物のDNAを検出したのはおそらく世界で初めてであり、今後フクロウをはじめとする鳥類の生態調査が容易になるほか、色々な分野で動物の行動や生態分布の関係などを調べる新しい応用の可能性が出てくるでしょう。

 自分達の身近な興味を、現在の分子生物学の方法を駆使しながら解析しています。しかも、そのための装置を試行錯誤しながら作り上げ、進めているところは極めて高く評価ができます。

科学技術政策担当大臣賞

謎に満ちた地表徘徊性ハシリカスミカメムシ類の生態(とくに発音と闘争)を解明そして飼育技術を開発したサクセスストーリー

 ハシリカスミカメムシ類は草原に生息する地表徘徊性昆虫で大きさ数ミリと小さいため,採集例もほとんどなく,その生態は未解明でした。本研究では試行錯誤を重ね採集方法を検討することで、継続的に多くの個体を採集することに成功しています。また、累代飼育の手法も確立し、その分布と生活史の解明は、この分野において基盤となる貴重な研究として高く評価されます。

 また,高校生らしい粘り強く飼育観察する中での気づきを、走査型電子顕微鏡による発音器の観察と試行錯誤により独自に開発した録音装置を用い、人には聞こえない微細な個体間コミュニケーションの記録に初めて成功しました。また、種ごとの発音器の構造と発音パターンの差から行動・生態上の様々な新知見を得るだけにとどまらず、分類体系にも発展させたことは、科学技術政策担当大臣賞に値する素晴らしい研究といえます。

 今後の研究により、種ごとの繁殖行動における発音パターンを明らかにし、ハシリカスミカメムシ類の生態の全貌の解明に繋げることを願っています。また、捕食性カメムシ類の生物農薬としての利用にも期待します。

科学技術振興機構賞

「四つ葉のクローバーを発生させる条件とは」

 クローバー(シロツメクサ)は、ふつうは3枚の葉を持つ(三つ葉)ですが、時に4枚(四つ葉)やそれ以上の葉を持つものが見つかることがあります。この研究ではその出現の仕組みについて興味を持ち解析しました。このような研究は高校生の研究では、時に類似の研究が見られます。この研究では、様々な栽培条件での多葉の出現頻度に着目し、窒素とリン酸の施肥量と多葉の出現の関係を示した点は、たいへんユニークで高く評価されました。これらの解析には、それぞれの条件で栽培した数百?1000本を超える数のサンプルを解析しており、このことも解析の信頼性を保証する点で高く評価される要因であったと思います。

 またこの研究では、三つ葉と四つ葉の葉柄の維管束についても顕微鏡を用いた観察を行いました。三つ葉ではほとんどの葉柄で5本の維管束を持ちます。四つ葉でも5本の維管束を持つものが最も多いのですが、半数以上の四つ葉が6本または7本の維管束を持つことも非常に興味深い結果であるといえます。葉の枚数のみではなく、通常目にしない葉柄の維管束の数・構造も、多葉のものは三つ葉のものと異なることを見出したことは、見えないものまで明らかにしたいという強い探究心の結果であり、今後の四つ葉の出現の原理の理解に繋がる示唆を含むのではないかと期待されます。以上のように、ありふれた植物の身近な疑問に真剣に取り組むことの重要さを示すとともに、独自の解析によって新規な現象の提案を行っている本研究は、科学技術振興機構賞に相応しいと言えます。

花王賞

「馬鈴薯澱粉の酸加水分解に伴うヨウ素呈色の不思議な色変化の発見」

 馬鈴薯澱粉のヨウ素呈色が、教科書に記述された青紫から赤紫への変化ではなく、青色の濃淡を繰り返すということを発見し、その謎を放置せずに原因の本質を深く追求された姿勢に感心しました。論理的な仮説を立ててセンスの良い実験・検証を繰り返し、最終的にその原因が「ジャガイモアミロペクチンの分岐構造に伴う加水分解抵抗性と長い分岐鎖長」にあることを解き明かしたのは見事です。得られた明快な結論は高校生の論文として高く評価できます。今回の成果をぜひ学会発表して広めて頂きたいと感じました。

JFEスチール賞

「マイクロバブルの旋回発生法に関する研究」

 通常の気泡とは大きく異なる性質を有するマイクロバブルの発生機構について、水流実験による検証から解析を進めた研究です。実験結果を正確・精密に観測し、生じている現象を適切なパラメーターを用いて解析することで、マイクロバブルの生成条件を定量的に明らかにしたことは高い評価に値します。

 実験での検証と理論的な解析が科学技術の発展を支える両輪です。チーム3人の知恵を寄せあって試行錯誤を繰り返し、実験装置の完成度を高め、目標とする状態に近づけていった姿勢は、未知の現象の解明に立ち向かう研究者としてあるべき姿の一つであり、当社の行動規範とも合致するものです。工学や産業への応用も期待できる成果が得られており、丁寧かつ熱意に満ちたプレゼンテーションも秀逸でした。

朝日新聞社賞

「シックハウス症候群解消を目指した卵殻の機能導入型建材の開発」

 この研究は、先輩たちから引き継いだ研究成果を、試行錯誤の末に、実際に建材の開発にまで発展させた点が、すばらしいと思います。米子高専の先輩たちの研究で、卵の殻や膜には、液体中では化学物質を吸着する性質があることが分かっていたそうです。「それなら、空気中でも吸着できるのでは?」。そんな発想から、石膏に卵殻を混ぜてみました。「この材料を壁などに使って、室内を漂う化学物質を吸着できれば、シックハウス症候群の解消に役立つかもしれない」。田中さんの発想、アイデアは尽きません。シックハウス症候群の原因の一つであるホルムアルデヒドの吸着具合を調べるため、建材に卵殻を5%以上加えてみると、濃度を建築基準法で定める値以下に抑えることができたそうです。さらにホルムアルデヒドの分解にまで成功すれば、将来、シックハウス症候群の解消につながるかもしれません。様々な実験データを示すだけでなく、開発した建材を手にしたプレゼンにも、説得力がありました。

荏原製作所賞

環境DNA定量解析を用いた生物モニタリングの確立

 本研究は、長良川と揖斐川の河口部から上流までの全18地点について、1年間に渡ってアユと冷水病菌のDNAを定量解析するという努力を積み重ね、そのデータから、稚魚の放流時期を遅らせることでアユの冷水病菌の感染を減少させられる可能性があることや、アユの遡上期に河口堰を開門することでアユの小型化を抑制できる可能性があることなど、アユの漁獲量減少という問題に対する具体的な解決策を示唆したことを高く評価します。

 さらに、研究者としての地道な努力、憶測を排してデータを分析する姿勢、具体的な解決策とその影響に関する多角的な検討、そして地元に貢献したいという志、これらについても素晴らしいと感じました。

 この研究が発展し、広く地元の生物資源の保護に貢献することを期待します。

竹中工務店賞

「新機構『ギロアクチュエータ」』の開発」

 研究の背景に、地震や洪水等の自然災害への対策を挙げていることが、弊社の安全安心建築の考え方につながっているとも考え、高く評価します。また、超電導の技術で実現するアクチュエーターをケアロボットの動きに組み込もうと考えており、弊社の進めるロボット開発の一助となるとも考えられます。

テレビ朝日特別奨励賞

「2017年12月11日茨城県沖で発生した ジェットの特徴と成因」

 本研究は、高高度発光現象の一種であるジェットの撮影に成功し、共同観測ネットワークなどからの情報と合わせて分析することで、発生地点や高度、ジェットの形状などを特定し成因を考察したものです。比較的近年に確認され、まだ詳細が分かっていないテーマに果敢に取り組み、一定の成果をあげた高校生のチャレンジ精神を評価しています。また、発生頻度が低い一瞬の現象をとらえるために、長期間撮影と確認を続けた地道で粘り強い姿勢は、映像や情報と日々向き合っているテレビ局の立場からも称賛に値します。今後、研究を深めていくことで環境科学や気象現象の解明に寄与していくことを期待しています。

花王特別奨励賞

「鉄-硝酸の化学振動 ~電気刺激を与えず振動反応を再現する新しい方法の研究~」

 硝酸中での鉄の化学振動(活性態―不動態間の振動)が電気等の刺激によって気まぐれに開始することに興味を持ち、再現性向上にチャレンジした結果、初めて電気刺激なしで安定な化学振動を実現したことは注目すべき成果です。

 化学反応を理解するうえで最も難しい動的過程を、シンプルな実験系でひとつひとつ緻密に検証されています。分かりやすいまとめ方にも好感が持てます。また、鉄・濃硝酸・空気の三境界面が振動安定性に影響するという知見も興味深く、今後さらに面白い成果が見出されるかもしれません。

「フギレデンジソウの研究 ~小葉が“ふぎれる”しくみの解明~」

 フギレデンジソウの葉先がハート形に分化する挙動を「ふぎれる」と称し、その原因解明に、綿密な実験・観察と高度な遺伝子解析で迫った迫真の研究です。その過程が詳細かつ簡潔にまとめられています。成長促進作用と成長抑制作用のある植物ホルモン(オーキシンとエチレン)及び水の透過を助けるアクアポリン遺伝子の葉上の分布が「ふぎれ」を生むという結論には有無を言わさぬ納得性があります。今回の考察を一般化して他の植物の葉の形状にも応用できれば、さらに素晴らしい成果につながるでしょう。

審査委員奨励賞

「EBウイルスの自然免疫系から逃れるための生存戦略-ウイルス発癌の新しい分子機構の解明」

 Epstein-Barrウイルス(EBV)は、成人の90%が感染し通常は病気を発症させませんが、リンパ腫、上咽頭がん、胃がんなどの原因になることがあり、EBVがヒトの免疫系から逃れて生存しているメカニズムの解明は、これらのがんの予防や治療に大きく貢献します。

 本研究では、ウイルス粒子の産生状態である溶解感染の後期に細胞の核に出現するBLRF2 というEBVの遺伝子がウイルスに対する免疫の中枢をなすインターフェロンという物質の産生を抑制し、EBVが増殖するというメカニズムが解明されました。県境を超えて共同研究を行った2名の高校生は、医学研究者となり自然免疫応答とウイルス感染との関連性を追究するという大きな夢を持っています。

「ブレスレットモデルを用いたルカ数列の拡張」

 フィボナッチ数と関わるルカ数列の拡張を試みた研究です。黒ビーズと白ビーズからなるn連m重のブレスレットで黒ビーズが隣り合わない具体的なモデルを考え、行列を用いることにより、いくつかの場合の漸化式を導くとともに、ルカ数列の拡張についても一定の結果を得ました。高校生になる前に受講したある講義でこの問題に興味を持ったそうです。その後長い期間研究を進め、数式処理言語による膨大な計算もいとわず、結果を得られたことを高く評価します。数学では実験が大切であると言われます。今後これまで得た成果をもとに、一般的なnやmの場合の漸化式を得るよう励んでください。今後の研究を期待するということで、本研究は審査委員奨励賞として選出されました。

「地球影~誰彼刻を追ふ~」

 日の出前や日没直後に、太陽を背にして地平線近くを見ると、「地球影」とよばれる青い帯とその上に淡いピンクの帯(ビーナスベルト)が重なって見えることがあります。模式図上ではその境目ははっきりしていますが、地上に立って空を見上げた時ははっきりとしていないのではないか。また地球の影にしては色が明るすぎるのではないか――という思いから、地球影が本当に地球の影かどうかを疑うところからスタートした研究です。

 実際にカメラを設置して、ゆがみのないレンズを使い、連続して見える空の色の変化と仰角に対応したその分析から、地球影とビーナスベルトの境界を明確に区別できることを発見しました。そして境界以下の青い帯が地球影であることを確認しました。今後、画像データ数を増やして行う高精度な分析に期待しています。

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