コロナの時代に JSECをめざす「後輩」たちへ
11年前にISEF派遣中止を経験、OBの西田惇さん

JSEC OB 西田惇さん

JSEC2020(第18回高校生・高専生科学技術チャレンジ)の応募受け付けが始まりました。今年は、新型コロナウイルスで学校が一斉休校となるなど、研究を進める上で大変な思いをしている生徒・学生の方もいると思います。JSECのOBで、3回連続入賞という記録を持つアメリカ・シカゴ大学研究員の西田惇さん(奈良女子大学附属中等教育学校出身)は11年前、新型ウイルスの影響で国際大会ISEFへの派遣が中止され、失意の中でJSECに再挑戦した経験があります。当時の心持ちや「後輩」たちへのメッセージなどを、オンライン会議システムでうかがいました。

写真:JSEC2007~2009の3回とも受賞した西田惇さん(西田さん提供)

突然の派遣中止

JSEC2008で「筋電位計測システムの開発とその応用」で科学技術振興機構賞など二つの賞を受け、2009年5月に念願のISEFに出場することになりました。研究内容は、筋肉を動かそうとする時に起きるわずかな電気信号「筋電位」を測定して、手や腕の動きを判別することで、触れずに機器を操れるシステムの開発です。
でも、アメリカへの出発直前に「派遣中止」の連絡が事務局からありました。当時新型インフルエンザの感染が広がっていて、「参加者の安全を最優先する」との理由でした。
悔しくてたまらなかった。ショックで何もする気がせず、大型連休は、研究用の工具や装置をしまい込んでずっと寝ていました。でも、なんでだろう、鼓舞したわけではないんですが、1週間くらいして、「また、もっとやろう」って気持ちになったんです。次のJSECの応募まで時間がなかったので、前年の研究を「その2」として発展させることにして、自宅に仮の研究室を作りました。電子回路を改善したり、筋電位の解析ソフトの新アルゴリズムを考案したり、論文と発表でのデモンストレーションの完成度を高めるのに没頭しました。


悔しさと「俯瞰」

もしあのとき、ISEF派遣が中止されなかったら。おそらく、その後も何か別のテーマで研究していたと思います。中止は悔しくてたまりませんでしたが、研究をいったん俯瞰(ふかん)的に見るいい機会にはなったと思います。
今、シカゴ大学で研究をしていますが、新型コロナの感染が拡大した今年3月中旬に大学が閉鎖されました。研究室にあった3Dプリンタや工具を家に持って帰ってきて、自宅で研究しています。はからずも11年前と同じですね。派遣中止という話とは違いますが、学会の締め切りが延びたりとか、タイミングが変わることは起きています。
今の研究テーマはざっくりと言うと、「他人の体験を自分の体験のように感じ取れる技術」です。当時は人とコンピュータの関係をどう変えるか、ということに興味を持っていましたが、今はもう一歩進んで、コンピュータを介して人と人の体験をどう変えられるか、というクエスチョンに興味を持っています。
例えば、装着型機器を使って目に見えづらい患者さんの筋肉の使い方を自分の筋肉で確認できるようにしたり、大人の体を子どもの体に変換するデバイスを使って、教室や科学館の空間デザイン、子どもの手に合うプロダクトデザインを支援したりしています。そうやって、自分の体を変えたときに、考え方や周りの環境のとらえ方が変わるのかというのも心理系の研究者と調べて、論文を書いています。


JSECの後輩たちへ

JSECやISEFに挑戦できるチャンスが少しでもある人にとって、今挑戦しない理由はないと思います。迷っている時点で、きっと行く意思がある。迷うならやった方がいいと思います。具体的なところだと、自分の書いた論文で気になるところがあれば、納得できるまでもう一度全体を見直してやり直すといいと思います。
研究の面白さは、自分で仮説を立てて実証するところにある。これは、自分が本当に興味を持っていることは何か、達成したいことは何かを再確認するよい機会でもあると思います。仮に、最終審査会に進めなかったとしても、自分が納得できる形にすることは、決して無駄ではない。みなさんにはそう伝えたいですね。

(聞き手・構成 朝日新聞教育総合本部JSEC事務局 柴田菜々子)


にしだ・じゅん 1991年、奈良県生まれ。2007~2009年のJSECでいずれも入賞。ISEF派遣中止の年に、「筋電位計測システムの開発とその応用 その2」で科学技術政策担当大臣賞。翌年のISEF2010で、材料工学・バイオエンジニアリング部門3等賞。筑波大、マイクロソフトやソニーの研究所などをへて、現在、米・シカゴ大学コンピュータサイエンス研究科の研究員。


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